【FP監修】「106万円の壁」撤廃へ――厚生年金の適用拡大で何が変わるのか

スマホdeほけん編集部監修者

ファイナンシャルプランナー

保有資格

AFP・2級FP技能士

専門分野・得意分野

生命保険・社会保障・金融全般

政府は2025年度の年金制度改革の一環として、「106万円の壁」を撤廃する方針を盛り込んだ年金改革法案を閣議決定し、国会に提出しました。これにより、パートタイム労働者の厚生年金加入条件が大幅に緩和される見通しです。本稿では、制度改正の全容とその影響を専門的視点から解説します。

制度改正の要点:「106万円の壁」とは

現行制度では、従業員数51人以上の企業で働くパートタイマーが週20時間以上勤務し、かつ年収が106万円以上である場合に厚生年金への加入が義務づけられています。いわゆる「106万円の壁」は、この保険料負担を避けるために就労調整を強いる一因とされてきました。

今回の制度改正により、週20時間以上働く労働者は、年収にかかわらず厚生年金に加入することとなり、所得制限が撤廃されます。

厚生年金加入の対象者拡大と企業規模要件の見直し

新法では、厚生年金の年収要件(106万円以上)は法成立から3年以内に完全撤廃される予定です。また、加入対象となる企業規模の要件も段階的に見直され、2027年10月から段階的に緩和され、最終的には2035年10月に企業規模要件自体が撤廃される計画です。

これにより、中小企業で働くパートタイマーにも厚生年金加入の道が開かれ、年金制度の公平性が高まると期待されています。

厚生年金の仕組みと国民年金との違い

厚生年金は、労使折半で保険料を支払い、加入者の給与に応じて将来の年金額が決定する「報酬比例型」の年金制度です。これに対し、自営業者などが加入する国民年金は定額保険料制で、受給額も定額です。

厚生年金に加入することで、老後の年金額が増えるだけでなく、障害年金や遺族年金の上乗せもあるため、加入者にとっては大きな保障の強化となります。

メリットとデメリット:将来の年金増と現役世代の手取り減

厚生年金への加入拡大は、将来の受給額増という明確なメリットをもたらします。一方で、保険料の負担が生じることで、短期的には手取り収入が減少することも避けられません。

政府はこれに対応するため、保険料負担の軽減措置や低所得者向けの支援制度の導入を併せて検討しています。

高齢就労者・高所得者への制度改正も

今回の法案では、働く高齢者への年金給付拡充措置や、高所得者層の保険料引き上げも盛り込まれています。これにより、現役世代と高齢世代、低所得者と高所得者の間でよりバランスの取れた負担と給付構造の構築が図られています。

今後の課題と制度の持続性

厚生年金の適用拡大は、長期的には年金制度全体の持続可能性向上に資する施策ですが、実施に際しては就労意欲への影響や中小企業の負担増などへの配慮が不可欠です。

今後は、制度変更が労働市場や事業者に与える影響を慎重にモニタリングしながら、必要に応じた制度調整が求められます。

よくある質問(Q&A)

Q1. パートでも年収が低くても厚生年金に入るの?

A. 今回の法改正で、週20時間以上働いていれば年収に関係なく厚生年金に加入することになります。これにより「106万円の壁」は撤廃されます。

Q2. 厚生年金に入ると何が変わる?

A. 国民年金よりも手厚い老齢年金を将来受け取れるようになります。また、障害年金や遺族年金の保障も上乗せされます。

Q3. 保険料負担で手取りは減るの?

A. はい。保険料を支払う必要があるため手取りは減りますが、その分将来の受給額が増えるため、長期的にはメリットが大きいといえます。

Q4. 企業はどのように対応すべき?

A. 企業は加入対象の従業員を把握し、適切に手続きを行う必要があります。特に中小企業では、保険料負担が増すため、準備と制度理解が重要です。

Q5. 法改正はいつから始まる?

A. 法成立から3年以内に年収要件が撤廃され、2027年10月から企業規模要件も段階的に緩和、2035年10月には完全撤廃される予定です。

まとめ:厚生年金改革がもたらすインパクト

「106万円の壁」撤廃により、これまで年収制限を意識して就労調整を行っていたパートタイマーにとって、働き方の選択肢が大きく広がります。将来的な年金受給額の底上げや、制度の公平性の観点からも意義のある改正といえるでしょう。

一方で、制度変更に伴う手取り減や企業負担への配慮も不可欠です。国や企業が連携して支援体制を整備することが、改革の成否を左右します。労働参加の活性化と年金制度の持続性を両立させるためにも、丁寧な制度設計と運用が求められます。

監修者からひとこと

スマホdeほけん編集部監修者

ファイナンシャルプランナー

「106万円の壁」撤廃は、短時間労働者の年金格差是正に向けた大きな一歩です。一方で、企業側の負担や本人の手取り減など、現実的な課題も多く、制度導入後の丁寧な運用が重要です。

中長期的には、年金制度の信頼性確保と労働参加率の向上という二つの軸をどう両立させるかが政策の鍵となるでしょう。