

スマホdeほけん編集部監修者
ファイナンシャルプランナー
AFP・2級FP技能士
「高齢者は高額療養費制度など公的医療保障があるから医療保険は不要」という考え方は一定の合理性があります。しかし、実際の医療費の自己負担や、長期療養による収入減少リスク、さらには差額ベッド代・食事療養費など公的制度ではカバーされない費用まで考慮すると、民間医療保険による備えは老後の経済的安定を支える重要な選択肢となります。
生命保険文化センターの統計によれば、65歳以上の高齢者における1回あたりの平均入院日数は約18.9日、その際の医療費自己負担額は平均19.3万円に達しています。この水準の医療支出が突発的に生じた場合、貯蓄だけで対応するのは負担が大きい世帯も少なくありません。
さらに、高齢期は就労収入が限定的となる一方で、医療費支出が増加する傾向にあるため、リスク分散の手段として民間医療保険を活用する意義は十分にあるといえるでしょう。
高齢者の医療費負担の現実とリスク
日本では70歳以上の医療費自己負担は2割、75歳以上は原則1割です。また、高額療養費制度により医療費の負担上限は月額約8万円+α。ただし、差額ベッド代や生活費などは公的保険では補償されません。
入院・手術により収入が減少したり、想定外の出費が続くことで、老後資金が枯渇するリスクがあります。
老後も医療保険が必要な5つの理由
高齢者が医療保険に加入するメリット
1. 医療費自己負担の軽減
日本の公的医療保険制度には高額療養費制度がありますが、それでも一定額の自己負担は必要です。特に70歳以上の場合、所得に応じて月額約8万円程度の上限が設定されていますが、この負担額は年金生活者にとって決して小さくありません。医療保険による給付金は、こうした医療費負担を補う役割を果たし、貯蓄の取り崩しを抑える効果が期待できます。
2. 差額ベッド代・生活費をカバー
公的医療保険では差額ベッド代や入院中の食事代、交通費といった付帯的な費用は対象外です。特に差額ベッド代は1日あたり1万円以上になることもあり、療養期間が長引けば大きな負担になります。医療保険の給付金を活用することで、こうした支出にも柔軟に対応でき、生活水準を維持しながら療養に専念できる環境が整います。
3. 先進医療への備え
公的医療保険対象外となる先進医療は、がんの陽子線治療・重粒子線治療など高度な技術が必要な医療行為を指します。1件あたりの自己負担額は約93.9万円(厚生労働省調べ)とされ、経済的負担は無視できません。医療保険に先進医療特約を付加することで、こうした高額医療にも備えることができます。
4. 家族の経済的負担を軽減
高齢者の入院や療養期間中には、治療費以外にも家族の交通費や介助にかかる費用が発生する場合があります。医療保険によって自身で必要な費用を賄うことができれば、家族への経済的負担を軽減でき、精神的な安心感や家庭内の負担軽減にもつながります。経済的な自立は、介護者と被介護者双方のQOL(生活の質)向上にも寄与します。
5. 精神的な安心
十分な経済的備えがあることで、予測できない医療リスクに対しても冷静に対応できる環境が整います。保険による保障があることで、「治療費を心配せず、安心して療養できる」という精神的な支えとなり、老後の生活設計全体にもプラスの影響を与えます。こうした安心感は、病気回復や治療への意欲を高める側面も指摘されています。
老後こそ、医療費の「予測不能」に備えるべき
加齢に伴い医療リスクは着実に上昇し、治療費や療養費の不確実性が家計を圧迫する要因となります。高額療養費制度などの公的保障だけではカバーできない費用も多く、医療費以外の生活維持費や差額ベッド代、先進医療費といった支出への対策が必要です。民間医療保険による保障は、こうした不確実性に対応するリスクヘッジとして有効であり、老後の生活設計における経済的安定と安心感を支える重要な手段となります。
よくある質問Q&A
「高齢期に医療保険は本当に必要なのか?」という疑問に対し、考慮すべきポイントを踏まえて解説します。
Q1. 公的医療保険だけで十分ではありませんか?
A. 日本の公的医療保険には高額療養費制度があるものの、対象となるのはあくまで医療費部分のみです。差額ベッド代、食事療養費、通院交通費、生活費などは自己負担となるため、十分な備えがないと家計に大きな影響を及ぼす可能性があります。
Q2. 入院期間が短いなら医療保険は不要では?
A. 現在の医療体制では、入院期間の短期化が進んでおり、日帰り入院や1泊入院でも給付対象となる医療保険が主流です。入院日数に関わらず、一時金が支払われるタイプを活用すれば、医療費だけでなく突発的な出費にも対応できます。
Q3. 年齢が上がると保険料が高くて損なのでは?
A. 年齢とともに保険料は上がりますが、月額5,000円前後の負担でも、万が一の際に数十万円規模の給付を受け取れるケースがあります。特にがん治療や長期療養に備えるには、費用対効果の観点からも検討の価値があります。
Q4. 持病(既往歴)があると加入できないのでは?
A. 一般的な医療保険への加入が難しい場合でも、引受基準緩和型医療保険など、持病や通院歴があっても加入できる商品があります。保障内容や保険料を比較し、無理のない設計を検討しましょう。
Q5. 自営業や個人事業主の高齢者はどうすべき?
A. 自営業やフリーランスは会社員と違い、傷病手当金などの公的補償がない場合が多く、入院によって収入がゼロになるリスクがあります。医療保険の給付金を生活費に充てられるため、経済的な安心を得るためにも備えを検討することが大切です。
まとめ
老後の医療保険の必要性は、一律に「必要」「不要」と判断できるものではありません。重要なのは、自身の健康状態、収入状況、保有する貯蓄額を踏まえたうえで、医療リスクに対してどこまで備えるかを冷静に見極めることです。
高額療養費制度などの公的保障は確かに存在しますが、差額ベッド代や生活費といった医療費以外の支出はカバーされません。こうした費用も含めて、どこまでを自己資金で補い、どこからを民間の医療保険でリスク分散するかが設計のポイントとなります。
医療保険は単なる「支出」ではなく、貯蓄を守り、安心して治療に向き合うための仕組みです。老後資金全体の中で過不足なくバランスをとりながら、必要な保障を「必要な分だけ」準備することが、無理なく安心を確保するための最適解と言えるでしょう。
監修者からひとこと
スマホdeほけん編集部監修者
ファイナンシャルプランナー
老後の医療リスクに備える方法は、一人ひとりの家計状況や健康状態によって異なります。日本の公的医療保険は充実していますが、差額ベッド代や長期療養時の生活費、収入減など、公的保障だけでは賄いきれない費用が発生するケースは少なくありません。医療保険は、そうした不測の出費に対する経済的な備えとして有効な選択肢となります。
保険の加入を検討する際には、現在の収入や貯蓄額、必要な生活費を踏まえたうえで、どの程度の保障が必要かを冷静に見極めることが大切です。また、過去に病気の経験がある方でも加入できる商品も増えており、持病があるからといってあきらめる必要はありません。
「もしものとき」に後悔しないために、感情的に保険を選ぶのではなく、今の自分に本当に必要な保障を見直し、無理のない範囲で備えを整えることが、安心できる老後生活への第一歩となります。