

諏澤 吉彦監修者
京都産業大学教授
保有資格
博士(商学)、Master of Business Administration (Hons.)、Master of Science
専門分野・得意分野
保険、リスクマネジメント、社会保障
これまでの保険は、「万が一に備えるもの」という役割が中心でした。病気やケガ、入院といった事態が起きたときに経済的負担を軽減してくれる仕組みとして、多くの人にとって“もしもの安心”として活用されてきました。
しかし近年、保険のあり方が大きく変わりつつあります。日常的な健康行動を応援し、生活習慣をサポートしてくれる「健康をつくる保険」が登場し、注目を集めています。スマートフォンやスマートウォッチと連携し、歩数や睡眠、運動などのデータを活用することで、加入者の健康づくりを後押しするしくみです。
本記事では、こうした“健康を支える保険”の仕組みやメリット、今後の保険選びに求められる視点について詳しく解説していきます。
健康を“つくる”保険が広がっている
「予防」や「行動変容」を促す新しい保険のかたち
これまでの保険は「もしもの備え」が主流でしたが、最近では健康づくりを日常からサポートする保険が注目されています。では、実際にどのような仕組みで健康を応援しているのでしょうか?

スマホdeほけん
最近「健康を応援する保険」って耳にするようになりましたが、どういう仕組みなんでしょうか?
諏澤 吉彦
はい。いわゆる“健康行動”に着目した保険ですね。加入者の歩数や運動量、睡眠などのデータを活用し、予め設定した目標値の達成状況に応じて特典が受けられるというものです。


スマホdeほけん
そのデータはどんな方法で取得しているのですか?
諏澤 吉彦
多くの場合、スマートフォンアプリやスマートウォッチと連携して記録されます。たとえば日々の歩数や睡眠時間などが自動的に記録され、それが保険会社に送られる仕組みです。


スマホdeほけん
それは保険というより、生活サポートのような印象も受けますね。
諏澤 吉彦
まさにその通りです。従来の「万が一に備える保険」、言い換えれば損失・費用に事後的に対処する保険から、日常を支え、事前に損失発生・費用負担のリスクを縮小する保険へと進化しています。保険があることで日々の行動が少し変わる、そういう役割を担うようになってきています。


スマホdeほけん
具体的にどのような支援があるのでしょう?
諏澤 吉彦
たとえば、運動の習慣化を促すコーチングサービスや、定期的な健康チェック、栄養士によるアドバイスなどをとおして、健康を維持・増進し、生活習慣病などを予防しようというものです。


スマホdeほけん
特典というのは、例えばどんなものがあるんでしょうか?
諏澤 吉彦
保険料の割引、ポイント還元、健康食品の割引、フィットネス施設の優待利用などがあります。最近では、提携企業の特典サービスも増えていますね。


スマホdeほけん
加入者としては続けやすい工夫があるのも大事ですね。
諏澤 吉彦
そのとおりです。目標を柔軟に設定するなど無理なく続けられる仕組みや、成果がリアルタイムで可視化されることで、モチベーションが維持されます。


スマホdeほけん
健康行動はどうやって測定するんですか?
諏澤 吉彦
ICT(情報通信技術)を活用しています。スマートウォッチやスマートフォンアプリが自動的に歩数や睡眠、心拍数を記録し、保険会社に連携される仕組みです。


スマホdeほけん
そうしたデータはきちんと管理されているのでしょうか?
諏澤 吉彦
データは匿名化され、厳格な情報管理体制のもとで扱われます。法令の整備も進んでおり、プライバシー保護の面でも信頼できます。


スマホdeほけん
こういった仕組みは、海外でも導入されているのですか?
諏澤 吉彦
はい、特に欧米の一部の保険会社ではすでに普及しており、運動習慣や食生活の改善が保険料に反映されるようなモデルが実用化されています。日本でも徐々に導入が進んでいますね。


スマホdeほけん
実際に加入者の健康意識は変わっているのでしょうか?
諏澤 吉彦
変化は見られます。日常的に健康データを見返すことで、自分の体調や生活習慣を意識するようになったという声が多く、継続的な改善行動にもつながっています。

加入者にも保険会社にもメリットがある
健康を保つことで、保険も経済も持続可能に
健康を維持することは、加入者にとっても保険会社にとっても多くの利点があります。こうした背景を踏まえて、保険業界の動きについても見ていきましょう。

スマホdeほけん
保険会社にとっても、加入者が健康になることは大きなメリットですよね?
諏澤 吉彦
そうです。保険金の支払いが抑えられ、保険収支の改善が見込まれだけでなく、健康な加入者は解約率が低く、契約継続期間が長くなる傾向があります。それにより経営の安定にもつながります。


スマホdeほけん
ESGやSDGsといった観点からも評価されそうです。
諏澤 吉彦
おっしゃる通りです。個人の健康維持・増進機能を持つ健康増進型医療保険は、企業としての社会的責任を果たす手段としても注目されており、今後の保険業界の方向性に大きな影響を与えると考えられます。


スマホdeほけん
加入者の健康をどう保ち続けるかも、今後の課題ですね。
諏澤 吉彦
まさにそこが重要です。アプリ連携だけでなく、日常生活に根ざした健康習慣の定着をどう支援するかが、サービスの質を左右します。


スマホdeほけん
これからの保険商品は、単なる金融商品を超えた存在になりそうですね。
諏澤 吉彦
はい、保険は“人生の伴走者”という役割を強めています。病気になったときだけでなく、ならないために何ができるかまでを含めた、新しい価値の創出が求められています。

今後の保険選びに求められる視点
保障+サポートの視点で「使える保険」を見極める
保険に求められる役割は、保障だけにとどまりません。日常を支えるサービスの視点から、どのように保険を選べばよいのかを考えていきます。

スマホdeほけん
私たちが保険を選ぶうえで、今後はどのような視点が大切になるでしょうか?
諏澤 吉彦
保障内容はもちろん大切ですが、それに加えて「加入後の支援サービス」が充実しているかどうかが鍵になります。健康相談や栄養アドバイス、ストレスチェックなど、生活全体をサポートしてくれる保険が理想的です。


スマホdeほけん
つまり、保険が“使える”存在であることが重要ということですね。
諏澤 吉彦
はい。今後の保険は「入る」だけでなく、「日常的に活用する」ものです。スマートフォンアプリで毎日の健康を可視化しながら、それが生活の質の向上に繋がっていくという視点が求められます。


スマホdeほけん
デジタルが苦手な方にとってはどうでしょうか?
諏澤 吉彦
簡便さやサポート体制も重要です。誰でも扱いやすいUI設計や、電話・対面での健康相談も取り入れることで、幅広い層にアプローチできます。

まとめ:保険は“人生の伴走者”へ
保険はもはや「リスクに備えるだけ」の存在ではありません。健康な日々をつくり、暮らしを豊かにする“パートナー”としての役割が強まっています。デジタル技術の発展により、個々の健康行動が可視化され、それに応じて保険のあり方も変わりつつあります。
これから保険を選ぶ際は、保障内容だけでなく「健康をどう支えてくれるか」「生活にどんな価値を提供してくれるか」といった観点から、自分の価値観に合ったものを選びましょう。
監修者からひとこと
諏澤 吉彦監修者
京都産業大学教授
従来、保険は事故後の損失補填機能を持つものの、事前の費用軽減機能は限定的であるとされてきました。
しかし、健康増進型医療保険の登場は、個人のインセンティブに働きかけ、保険金と医療費を削減する機能を、保険が能動的に発揮し得ることを示しました。
この保険のリスク評価精度が一層向上し、より高い健康増進・医療費削減効果を持つものとして広く普及すれば、保険会社の収支が改善するのはもちろんですが、健康増進によるQOLの向上、健康寿命と就労年齢の延伸による労働力不足の改善、労働生産性の向上、公的医療保険を含む社会保障制度の持続性向上などをとおして、活力ある健康長寿社会の実現にも貢献するはずです。
その意味でもこの保険の今後には、注目していきたいと思います。