

前田 祐治監修者
関西学院大学教授
保有資格
ARM(米国リスクマネジメント士資格)、CPCU(米国保険士資格)、PhD(博士)、MBA(経営学修士)
専門分野・得意分野
生命保険全般、リスクマネジメント、ファイナンス、経営学
病気や災害、事故、そして老後の生活——。私たちが日々暮らす中には、気づかないうちにさまざまな「リスク」が存在しています。突然の出来事で家計が大きく揺らぐことも珍しくありません。
しかし、リスクは「避けるもの」ではなく、「備えることでコントロールできるもの」。そう考えることで、将来への不安も少しずつ軽くなっていきます。
本記事では、関西学院大学の前田教授に「リスクの基本的な考え方」から「保険や投資による備え方」まで、家計に役立つ知識を分かりやすく解説していただきました。
漠然とした不安を、具体的な行動に変えるヒントがここにあります。まずは「リスク」とは何かを知るところから、一緒に始めてみませんか。
リスクってそもそも何ですか? 私たちの日常にどう関係するんでしょうか?
プラスもマイナスも含めた「不確かさ」がリスク
「リスク」という言葉は身近にあっても、実際にどんな意味で使われているのでしょうか。さて、実際に専門家に聞いてみましょう。

スマホdeほけん編集部
リスクという言葉はよく聞きますが、具体的にどういう意味かピンときません。まずはリスクの基本的な定義について教えてください。
前田 祐治
たとえば国際規格であるISO規格によると「リスクとは目的に対する不確かさの影響」と定義されています。


スマホdeほけん編集部
「不確かさの影響」と言われても、少し抽象的に感じます。具体的にはどのようなケースがあるのでしょうか?
前田 祐治
予想とは違ったことが起こること、それがリスクです。そしてその影響が「プラス」の場合も「マイナス」の場合もあるという点が重要です。


スマホdeほけん編集部
プラスの影響もリスクなんですね。意外でした。
前田 祐治
そうですね。昔はマイナスの影響だけをリスクと捉えていましたが、現在ではプラスの可能性も含めてリスクとしています。


スマホdeほけん編集部
日常生活の中では、どのような場面でリスクを感じることがありますか?
前田 祐治
例えば、為替変動によってガソリン価格が上下することも「価格変動リスク」です。


スマホdeほけん編集部
他にも日常の中にリスクはありますか?
前田 祐治
自動車を運転していて事故に遭った場合、他人に対して賠償責任を負うリスクもあります。このように、私たちは日々変化の中で暮らしており、生活のあらゆるところにリスクが存在しています。

家計に関わるリスクには、どんな種類があると考えていますか?
保険で備えるべき「純粋リスク」とは?
家計に関わるリスクにはどんなものがあるのでしょうか。ここからは、保険の対象となるリスクについて具体的に聞いてみましょう。

スマホdeほけん編集部
「家計のリスクマネジメント」という言葉も耳にしますが、そもそもどんなリスクがあると考えればよいのでしょうか?
前田 祐治
保険で補償される「純粋リスク」と呼ばれるものの多くは、家計に関わるリスクです。


スマホdeほけん編集部
「純粋リスク」とはどういったものなのでしょう?
前田 祐治
火災、爆発、落雷、地震、雪災、風水災、自動車事故、死亡、傷害、病気など、ほとんどがマイナスの影響を及ぼすものです。これらは保険によって補償されるため、家計に直接関係します。

「リスクマネジメント」とはどういうことを指すのでしょうか?
リスクマネジメントは具体的にどんなプロセス?

スマホdeほけん編集部
保険や投資などの場面でリスクマネジメントという言葉を聞くようになりました。具体的にはどういう行動を指すのでしょうか?
前田 祐治
「ある目的に脅威を与えるリスクを洗い出し、特定し、評価し、それに対応する対策を行い、そして結果を再評価する」——この一連の流れがリスクマネジメントです。


スマホdeほけん編集部
家計に置き換えると、どのように実践すれば良いのでしょうか?
前田 祐治
まず自分に関わるリスクを洗い出し、それを評価します。そして、そのリスクに対してどのような対策を講じるか、あるいは講じないかを判断し、実行します。最後に結果を再評価する、というプロセスになります。

保険・積立・何もしない……リスクへの対処法はどう選べばいいんですか?
リスク許容度によって選ぶ対策は変わる
人によってリスクへの感じ方や備え方は異なります。では、実際にどうやって自分に合った対策を選べばよいのでしょうか。

スマホdeほけん編集部
「リスクには保険や積立で備えましょう」とよく言われますが、何をどう選べばいいのか分かりません。判断の基準を教えてください。
前田 祐治
リスクマネジメントを行い、それぞれの事象による影響度を評価すると、その対策がおのずと見えてきます。


スマホdeほけん編集部
人によって対応が違う、ということでしょうか?
前田 祐治
はい。対策を行うかどうかは、人の「リスク許容度」によって異なります。


スマホdeほけん編集部
リスク許容度はどのように違ってくるのですか?
前田 祐治
例えば、独身の人と子供がいる家族持ちの人ではリスク許容度が違います。また、資産の有無によっても対応は変わります。


スマホdeほけん編集部
具体的な例を挙げていただけますか?
前田 祐治
たとえば、地震で自宅が壊れた際に再建する資金がない人なら、保険や備金による備えが必要になります。一方で、家を複数所有している人であれば、何もしないという判断もあり得ます。


スマホdeほけん編集部
なるほど。個人の状況によって、対応は柔軟に変わるということですね。
前田 祐治
このように、人それぞれ財務状況や家族構成によって、リスクへの耐性や対応は異なるのです。

保険ってどこまでかければ安心なんでしょうか?
必要な保障だけを見極めて効率的に備える
なんとなく不安だからと、つい保険に入りすぎてしまうことも。そこで、保険の「かけすぎ」を防ぐための考え方を聞いてみました。

スマホdeほけん編集部
つい「あれもこれも」と保険に入ってしまいがちですが、実際にはどのくらい備えるのが適切なのでしょうか?
前田 祐治
保険は安価でリスクの影響を軽減してくれますが、かけすぎると保険料が高額になります。


スマホdeほけん編集部
掛け捨てで戻ってこないと損した気分にもなりますよね。
前田 祐治
はい、保険事象が発生しない限り、保険料は戻ってきません。ですからリスクに見合った保障を見極める必要があります。


スマホdeほけん編集部
リスクが高い人ほど保険料も上がるんですよね?
前田 祐治
その通りです。ですから効率的に備えることが重要です。例えば、40歳を過ぎた方であれば、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険、医療保険、生命保険の5つで最低限の安心が得られるでしょう。


スマホdeほけん編集部
保険をかけたからといって安心しすぎないようにした方がいいのですね。
前田 祐治
はい。自動車保険のように等級制度がある保険では、事故を起こさないことで保険料を下げることができます。備えると同時に、事故を起こさない行動も大切なのです。

保険を見直すのにおすすめのタイミングってありますか?
見直しのタイミングはいつがいい?
いま加入している保険が自分に合っているか、不安に感じることもあります。どのようなタイミングで見直しを考えるべきか、前田教授に伺いました。

スマホdeほけん編集部
いま加入している保険が自分に合っているか不安です。どんなタイミングで見直せばよいのでしょうか?
前田 祐治
生命保険では40歳を過ぎると一度見直すことをおすすめします。


スマホdeほけん編集部
40歳前後が節目になるということですね。
前田 祐治
この年代は家族ができたり、子どもが生まれたりと、人生の大きな転機を迎える時期でもあります。


スマホdeほけん編集部
健康状態がよいときに見直したほうがいい理由はありますか?
前田 祐治
心身ともに健康で、仕事も充実しているときに保険を見直すことで、より適切な備えができるのです。


スマホdeほけん編集部
見直す際には、どの保険に注目すべきですか?

スマホdeほけん編集部
具体的に注意が必要なケースはありますか?
前田 祐治
特に、10年満期の定期型に加入している方は注意が必要です。年齢が上がるにつれて保険料は跳ね上がり、財政的な負担が大きくなります。


スマホdeほけん編集部
将来の加入制限なども視野に入れるべきでしょうか?
前田 祐治
高齢になると病気で新たな保険に入りにくくなったり、保険料が非常に高くなったりする可能性もあります。


スマホdeほけん編集部
終身型に加入しなおすならこの時期がチャンス、ということですね。
前田 祐治
その通りです。今がちょうど見直しのタイミングだといえるでしょう。

よく聞く「リスクマップ」とは、どう使えばいいのでしょうか?
リスクの優先順位を「見える化」するツール
リスクに優先順位をつけて備えるにはどうすればよいのでしょうか。ここで注目したいのが「リスクマップ」という考え方です。

スマホdeほけん編集部
「リスクマップ」という言葉を聞いたことがありますが、家計管理にどう活用すればいいのか、正直よく分かりません。
前田 祐治
リスクマップとは、企業がリスクマネジメント戦略を立てるために作成するものです。


スマホdeほけん編集部
具体的にどのような内容が盛り込まれるのですか?
前田 祐治
リスクの発生頻度をX軸、影響の大きさをY軸として、散布図にまとめます。


スマホdeほけん編集部
それを家計にも応用できるということでしょうか?
前田 祐治
はい。どのリスクが重大かを視覚的に把握しやすくなり、対策の優先順位が明確になります。

将来に向けたお金の備えとして、投資はしたほうがいいと思いますか?
「長生きリスク」に備えるための資産形成
人生100年時代と言われる今、長生きそのものがリスクになることも。では、どう備えるべきか、詳しく伺います。

スマホdeほけん編集部
最近は投資の必要性がよく言われますが、リスクもあって迷ってしまいます。そもそも家計と投資って、どうつながっているのでしょうか?
前田 祐治
最低10年の投資期間が確保できるなら、ETFや投資信託を中心とした株式投資による資産形成がおすすめです。


スマホdeほけん編集部
その背景には何があるのですか?
前田 祐治
その背景には、「長寿リスク」の高まりがあります。


スマホdeほけん編集部
長寿リスクとは何ですか?
前田 祐治
長く生きることで、老後資金が尽きてしまうリスクのことです。これに備える手段の一つが、投資による資産形成なのです。

投資のリスクが怖いです。初心者でもできる方法はありますか?
長期・分散・積立がリスクを抑えるカギ
投資に興味はあるけれど、損をするのが怖い。そんな初心者でも始めやすい方法があるのか、聞いてみました。

スマホdeほけん編集部
投資を始めたい気持ちはあるのですが、失敗が怖くて踏み出せません。初心者でも始めやすい考え方や手法があれば教えてください。
前田 祐治
投資が怖いと感じる理由の一つは、株投資をギャンブルと捉えているからでしょう。


スマホdeほけん編集部
確かに、損失のリスクを強く意識してしまいます。
前田 祐治
ですが株は企業の純資産に基づく価値があり、投資対象としての正当な根拠があります。


スマホdeほけん編集部
長期で見れば利益が出る可能性もあるということですか?
前田 祐治
短期的には変動しますが、長期的に見れば企業の成長とともに株価も上がっていくのが一般的です。


スマホdeほけん編集部
リスクを抑えるためにはどんな方法がありますか?
前田 祐治
時間分散で定期的に投資する「ドルコスト平均法」や、インデックス型投資信託、ETFなどが有効です。


スマホdeほけん編集部
分散投資というのも大事なんですね。
前田 祐治
はい。最低30銘柄程度に分散して個別株に投資するという方法もあります。

これからリスクに備えたいと思っている人に、まず伝えたいことは何ですか?
まずは「自分の許容できる損失」を知ることから
では、最初にどんなことから始めるべきなのでしょうか。リスクと向き合う第一歩について、前田先生のアドバイスです。

スマホdeほけん編集部
最後に、これから家計のリスクに備えていきたいと思っている方に向けて、前田先生からのアドバイスをお願いします。
前田 祐治
私たちの周りにはさまざまなリスクがあり、それが顕在化することで悪影響を被る可能性があります。


スマホdeほけん編集部
どんな点から考え始めればよいでしょうか?
前田 祐治
自分にとってどれほどの損失が許容できるのかを、一度想像してみてください。


スマホdeほけん編集部
具体的にはどのように考えると良いですか?
前田 祐治
10万円なら大丈夫か?100万円、1000万円でも耐えられるのか? それぞれの財務状況によって答えは違うはずです。


スマホdeほけん編集部
では、その後は何をすべきでしょう?
前田 祐治
その許容度を超えるリスクをリストアップしてみましょう。それが第一歩となります。

まとめ(編集部より)
日々の生活ではつい後回しになりがちな「家計のリスク管理」。でも、いざというときに困らないために、リスクを可視化し、備えを選ぶことが重要だと感じました。教授がすすめる“リスクマップ”は、私たちにもすぐ活用できる考え方。まずは自分の家計を見直し、小さくても一歩を踏み出してみましょう。
また、保険や投資といった手段は、正しく理解し、自分の状況に合わせて選ぶことが大切です。安心のための備えは「量より質」。過不足なく、自分に合った対策を取ることが、将来の不安を減らす第一歩となります。
さらに、見直しのタイミングやリスク許容度を意識することで、家計の中にムダのない備えが可能になります。加入している保険や積立の内容が、現在のライフスタイルや価値観と一致しているかどうか、定期的に振り返ることも忘れずに。リスクとどう向き合い、どう備えるか。それを考えること自体が、豊かな未来への第一歩といえるのではないでしょうか。
監修者からひとこと
前田 祐治監修者
関西学院大学教授
今回の監修を通じて、あらためて「家計におけるリスクマネジメント」の重要性と、その実践的な意義を再認識いたしました。
医療費や災害、収入減少など、家計を揺るがすリスクは年々多様化・複雑化しています。こうした変化に対しては、制度や保障内容を正しく理解し、適切な備えを講じることが不可欠です。
本記事が、ご自身のリスクマネジメント体制を見直す一助となれば幸いです。将来の安心と安定のために、客観的な視点での点検と対策をぜひ意識してみてください。